第1章 たった1件のキャンセルで何が消えているのか

「すみません、今日キャンセルでお願いします」

クリニックを運営していると、毎日のように入る連絡です。

もちろん、急な体調不良もあります。仕事の都合もある。子どもの発熱もある。どうしても外せない事情もある。

だから私は、キャンセルそのものを責めたいわけではありません。

むしろ、事前に連絡をいただけるだけでも、まだ調整の余地があります。キャンセル待ちの患者さんへ連絡できるかもしれない。リハビリ枠を動かせるかもしれない。スタッフ配置を調整できるかもしれない。

■ 本当に困るのは"連絡なしキャンセル"

本当に困るのは、"連絡なしキャンセル"です。

予約時間になっても来ない。電話もつながらない。

その瞬間、診療室の時間が止まります。

しかし、止まっているのは医師だけではありません。

看護師は準備をしている。薬剤は用意されている。エコー機器などの機器類を確保している。リハビリ枠も調整してある。

腐ったりはしませんが、飲食でいうところの食材を用意してしまっているのと同じなんですね。

■ 予約枠は"限られた医療資源"

医療というのは、医師一人だけで成立しているわけではありません。

一人の予約のために、複数のスタッフが動いています。そしてその予約枠を確保するために、別の患者さんを断っていることもあります。

つまり予約枠とは、単なるスケジュールではないのです。"限られた医療資源"なのです。

■ 海外との考え方の違い

海外では、この感覚が日本とは少し異なります。

アメリカでは、"No-show fee"としてキャンセル料を設定している医療機関は珍しくありません。イギリスでも、無断キャンセルによる診療機会損失は社会問題として扱われています。

そこでは、"医療者に迷惑がかかるから"ではなく、"限られた医療資源を守るため"という考え方が共有されているのです。

一方、日本の医療は、長い間、"善意"によって支えられてきました。

そしてその善意が、今、限界へ近づいているのだと思います。

※この記事はnoteにも掲載しています。

この記事の執筆・監修

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寺田 哲Satoshi Terada

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医師/麻酔科専門医・ペインクリニック専門医

「痛み痺れを諦めない」をモットーに、日々診療にあたっています。最新のエコーガイド下治療やVR治療など、医学の力で患者さんの日常を取り戻すためのヒントと、日々の学びを綴ります。

略歴・資格

  • 2008年 埼玉医療センター麻酔科
  • 2014年 NTT東日本関東病院 ペインクリニック科
  • 2016年 静清リハビリテーション病院
  • 2019年 三島総合病院 ペインクリニック科 医長
  • ペインクリニック専門医 / 厚生労働省 麻酔科標榜医 / 健康スポーツ医

専門・研究

超音波ガイド下治療やVR治療の最前線で活動し、多くの学会(日本整形超音波学会、日本ペインクリニック学会、日本VR医学会等)でシンポジストや基調講演を務める。

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