治療の解説

「脊柱管狭窄症で足がしびれる」 Raczカテーテルという選択肢

2026年 06月 07日

「脊柱管狭窄症で足がしびれる」

  Raczカテーテルという選択肢  

「歩くと足がしびれて、少し休むとまた歩ける」

「腰は痛くないのに、足だけがつらい」

脊柱管狭窄症の方から、こういったお話をよく聞きます。

薬やリハビリ、神経ブロックを試しても、なかなか改善しない——そういう難治性のケースに対して、当院では「Raczカテーテル(経皮的硬膜外神経癒着剥離術)」という治療を行っています。

あまり聞き慣れない名前だと思いますので、今回はこの治療について詳しくお話しします。

■ なぜ、神経が「癒着」するのか

脊柱管狭窄症では、背骨の中の神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫されます。

この状態が長く続くと、神経の周囲で炎症が起き、神経が周りの組織と癒着(ゆちゃく)——つまり「くっついて」しまうことがあります。

こうなると、神経への血流が悪くなり、薬や通常のブロック注射だけでは十分な効果が得にくくなってきます。

■ Raczカテーテルとは

Raczカテーテルは、先端が柔らかく自在に曲がる細いカテーテル(管)を仙骨裂孔(お尻の割れ目の上あたり)から硬膜外腔に挿入し、癒着した神経の周囲を薬液で剥離・洗浄する治療です。

1980年代にGabor B. Racz医師が開発した手技で、現在は世界中のペインクリニックで行われています。

処置は通常、透視(レントゲンのリアルタイム画像)を使いながら外来で行います。入院は基本的に不要です。

■ 実際の流れ

1. うつ伏せになり、仙骨裂孔(お尻の割れ目の上)を消毒・局所麻酔します

2. 透視画像を確認しながら、カテーテルを硬膜外腔の目的の部位まで誘導します

3. 造影剤を注入し、癒着している箇所を画像で確認します

4. 局所麻酔薬・ステロイド・ヒアルロニダーゼ(癒着を溶かす酵素)などを注入し、神経周囲を剥離・洗浄します

■ ハイドロリリース・神経ブロックとの違い

これまでの記事でご紹介したハイドロリリースや神経ブロックとの大きな違いは、「カテーテルを使ってピンポイントで届ける」点です。

通常の注射では薬液が届きにくい癒着した部位に対して、カテーテルの先端を直接誘導することで、より確実にアプローチできます。

また、複数の薬剤を組み合わせて注入することで、「剥がす」「炎症を抑える」「神経の環境を整える」という複合的な効果が期待できます。

ハイドロリリース・神経ブロックを試しても改善が不十分だった方、手術を勧められたが迷っている方——Raczカテーテルが次の選択肢になることがあります。

■ こんな方にご相談ください

・脊柱管狭窄症と診断されており、歩行時の足のしびれ・痛みが続いている

・腰部椎間板ヘルニアで坐骨神経痛が長引いている

・腰の手術後も痛みやしびれが残っている(術後癒着)

・薬・リハビリ・通常の神経ブロックで効果が不十分

・手術は避けたいが、現状の保存療法では限界を感じている

「もう手術しかないと言われた」という方も、一度ご相談ください。当院では、手術の前に試せる選択肢を一緒に考えます。

【参考文献】

1. Helm S 2nd, Racz GB, et al. Percutaneous and Endoscopic Adhesiolysis in Managing Low Back and Lower Extremity Pain: A Systematic Review and Meta-analysis. Pain Physician. 2016;19(2):E245-82. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26815254/

2. Manchikanti L, et al. Effectiveness of Percutaneous Adhesiolysis in Managing Chronic Central Lumbar Spinal Stenosis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Pain Physician. 2019;22(6):E523-E550. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31775400/

3. Racz GB, Heavner JE, Trescot A. Percutaneous lysis of epidural adhesions: evidence for safety and efficacy. Pain Pract. 2008;8(4):277-286. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18503627/

4. Choi E, Nahm FS, Lee PB. Evaluation of prognostic predictors of percutaneous adhesiolysis using a Racz catheter for post lumbar surgery syndrome or spinal stenosis. Pain Physician. 2013;16(5):E531-6. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24077203/

5. Elhamid MA, et al. Analgesic Efficacy of Epidural Neuroplasty via Racz Catheter During Lumbar Fixation In Situ for Lumbosacral Spondylolisthesis: A Randomized Controlled Trial. Anesthesiology Research and Practice. 2026. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1155/anrp/1031307

この記事の執筆・監修

著者のプロフィール画像

寺田 哲Satoshi Terada

InstagramFacebookNote

医師/麻酔科専門医・ペインクリニック専門医

「痛み痺れを諦めない」をモットーに、日々診療にあたっています。最新のエコーガイド下治療やVR治療など、医学の力で患者さんの日常を取り戻すためのヒントと、日々の学びを綴ります。

略歴・資格

  • 2008年 埼玉医療センター麻酔科
  • 2014年 NTT東日本関東病院 ペインクリニック科
  • 2016年 静清リハビリテーション病院
  • 2019年 三島総合病院 ペインクリニック科 医長
  • ペインクリニック専門医 / 厚生労働省 麻酔科標榜医 / 健康スポーツ医

専門・研究

超音波ガイド下治療やVR治療の最前線で活動し、多くの学会(日本整形超音波学会、日本ペインクリニック学会、日本VR医学会等)でシンポジストや基調講演を務める。

最新記事