第6章 医療は「サービス」なのか

「医療はサービス業です」

この言葉を、私は何度も聞いてきました。

確かに、接遇は重要です。説明不足や高圧的な態度によって、患者さんが傷ついてきた歴史もある。だから、丁寧に説明すること、安心して受診できる空間を作ること——それ自体は、間違いなく大切です。

■ 時代は変わった、しかし

実際、昔の日本医療には、「お医者様」的な空気が存在していました。医師は絶対。患者は従う。説明は少なく、質問しづらい。そうしたpaternalism(父権主義)的医療が、患者さんを置き去りにしてきた面もある。

だから時代は変わった。インフォームドコンセントが重視され、患者さん自身が治療へ参加する時代になった。これは、非常に大切な進歩だったと思います。

しかし私は時々、医療が"サービス"へ寄り過ぎた時、何か大事なものが失われる気がするのです。

■ 医療は「希望通り」だけでは成立しない

飲食店であれば、「おすすめではない方」を注文しても、基本的には自己責任です。美容院でも、希望通りの髪型を選べる。しかし医療は違います。命が関わる。副作用がある。侵襲がある。最終的な責任は、医療側が背負うことになる。

だから、「希望通り」と「医学的に妥当」が、一致しない場面があるのです。本当は必要ない検査、本当は適応のない薬——それでも「他院ではやってくれた」と言われると、現場は揺れる。

■ AI時代でも、「完全顧客主義」にはなれない

今後、AIの発達によって、医師の"権威性"はますます低下していくと思います。患者さんは、論文要約を調べ、治療法を比較し、鑑別診断まで検索できるようになる。それ自体は悪いことではありません。

ですが、「お医者様」が終わることと、「医療が完全な顧客主義になること」は、全く別問題です。医療は、限られた医療資源を配分し、リスクを説明し、副作用責任を背負いながら、その人にとって最善を探す仕事です。

■ 寄り添うことと、迎合することは違う

レビュー社会やサービス化によって、「言いづらさ」が増している。怒らせたくない。低評価を書かれたくない。すると、少しずつ"医学的妥当性"より"顧客満足"が優先され始める。私は、ここに危うさを感じています。

患者さんへ寄り添うことは大切です。ですが、寄り添うことと迎合することは違う。

本来、医療とは「お医者様」と「患者様」の関係ではないはずです。病気や痛みに対して、一緒に向き合う共同作業です。

だからこれから必要なのは、権威でもなく、過剰サービスでもなく、"説明責任を伴う対話"なのだと思います。

互いに、限界を理解すること。医療資源が有限であることを共有すること。相手を"消費対象"ではなく、同じ社会を支える人間として見ること。それがなければ、これからの医療は、きっと持続できないのだと思います。

この記事の執筆・監修

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寺田 哲Satoshi Terada

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医師/麻酔科専門医・ペインクリニック専門医

「痛み痺れを諦めない」をモットーに、日々診療にあたっています。最新のエコーガイド下治療やVR治療など、医学の力で患者さんの日常を取り戻すためのヒントと、日々の学びを綴ります。

略歴・資格

  • 2008年 埼玉医療センター麻酔科
  • 2014年 NTT東日本関東病院 ペインクリニック科
  • 2016年 静清リハビリテーション病院
  • 2019年 三島総合病院 ペインクリニック科 医長
  • ペインクリニック専門医 / 厚生労働省 麻酔科標榜医 / 健康スポーツ医

専門・研究

超音波ガイド下治療やVR治療の最前線で活動し、多くの学会(日本整形超音波学会、日本ペインクリニック学会、日本VR医学会等)でシンポジストや基調講演を務める。

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