2026年 09月 17日
このたび、当院で行っている治療について、患者様によりご理解を深めていただくための一冊、「治療大全」を作成しました。神経ブロック注射から理学療法まで、当院で対応している治療法を一つひとつまとめた冊子で、院内でご覧いただけます。
今回は、その「治療大全」の中から、当院が診察の際に大切にしている考え方——痛みの3つの「原因タイプ」と、それぞれに対して当院が用意している治療の選択肢(武器)について、ブログでもご紹介したいと思います。武器は多ければ多いほど、目の前の患者さんに合った治療を選べると考えています。
■ 痛みには3つの「原因タイプ」がある
国際疼痛学会(IASP)は、痛みをその成り立ち(メカニズム)によって3つのタイプに分類しています。同じ「痛い」という感覚でも、体の中で起きていることはまったく異なる場合があり、タイプによって効果的なアプローチも変わってきます。
① 侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)
組織そのものに損傷や炎症があり、痛みを感じるセンサー(侵害受容器)が正常に反応して「痛い」という信号を出しているタイプです。変形性関節症で軟骨がすり減る、腱や靭帯を痛める、捻挫や打撲で組織が傷つく、筋肉が炎症を起こす——といった、いわば「構造的な原因」がはっきりしている痛みが中心です。動かしたときや押したときに痛みが強くなる、患部を休めると楽になるなど、原因部位と痛みの出方が比較的一致しやすいのが特徴です。3つのタイプの中では最も頻度が高く、日常診療で出会う痛みの多くがこのタイプに当てはまります。
② 神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)
神経そのものが障害されたり、圧迫されたり、傷ついたりすることで、神経から異常な痛みの信号が発せられるタイプです。坐骨神経痛、三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛、脊柱管狭窄症による足のしびれ・痛みなどが代表例です。「ピリピリ」「ジンジン」「電気が走るような」といった、侵害受容性疼痛とは異なる独特の痛み方をすることが多く、触れただけで痛みが強く出る(アロディニア)、逆に感覚が鈍くなる、といった感覚の異常を伴うこともあります。神経の走行に沿って痛みが広がることも特徴の一つです。
③ 痛覚変調性疼痛(つうかくへんちょうせいとうつう)
組織や神経を詳しく調べても、痛みの原因となるような明らかな損傷が見当たらないにもかかわらず、強い痛みが続くタイプです。痛みを感じる仕組みそのもの——脳や脊髄で痛みの信号を処理する過程——が過敏になってしまっている状態と考えられています。線維筋痛症が代表的な疾患で、全身の広い範囲の痛み、こわばり、強い疲労感、睡眠の質の低下などを伴うことが多いとされています。「痛みの程度に見合うだけの組織の損傷が見つからない」という点が、他の2つのタイプと大きく異なります。この考え方が国際的な分類として整理されたのは比較的最近(2017年前後)で、まだ研究や治療法の蓄積が発展途上にある領域です。
実際には、一人の患者さんの中でこれらのタイプが混在していることも少なくありません。たとえば、長引く腰痛の中に、椎間板由来の侵害受容性疼痛と、神経根が圧迫されたことによる神経障害性疼痛、さらに痛みが長期化する中で生じた痛覚変調性の要素が、同時に存在しているようなケースもあります。当院では、この3つのタイプを意識しながら診察を行い、複数ある治療の「武器」の中から、その方の痛みの成り立ちに合ったものを組み合わせてご提案しています。
■ 侵害受容性疼痛への武器
構造的な原因がある痛みに対しては、当院で最も多くの選択肢をご用意しています。
- 関節内注射(ヒアルロン酸注射)
- PRP療法(再生治療)
- 体外衝撃波治療
- プロロセラピー(増殖療法)
- 動注療法(モヤモヤ血管への治療)
- ハイドロリリース・トリガーポイント注射(筋膜・筋肉由来のこり)
- パンピング(石灰沈着性腱板炎)
- ばね指のエコーガイド下腱鞘切開術
- サイレントマニュピレーション・水圧拡張術(肩関節拘縮)
- アキュリアン(膝の変形性関節症に対する神経焼灼による除痛)
- 装具療法・体重管理療法(関節への負担そのものを減らすアプローチ)
- 理学療法(運動療法・物理療法)
これだけ多くの選択肢があるのは、「構造的な痛み」と一言で言っても、原因部位や重症度、患者さんの生活スタイルによって適した方法が大きく異なるためです。
■ 神経障害性疼痛への武器
神経そのものが原因となっている痛みには、以下のような治療で対応しています。
- 神経ブロック注射(硬膜外ブロック・神経根ブロック・三叉神経ブロック・肋間神経ブロックなど)
- Raczカテーテル(硬膜外癒着剥離術)
- パルス治療(PRF)
- スーパーライザー(近赤外線治療、自律神経系へのアプローチ)
これらは、神経の伝達そのものに働きかけたり、神経を締め付けている癒着を物理的に取り除いたりすることを目的とした治療です。
■ 痛覚変調性疼痛への武器
明らかな損傷が見当たらないのに痛みが強く出るタイプの痛みに対しては、以下のような選択肢があります。
- エイト(疼痛緩和治療器):自宅で使用する交番磁界の機器で、同一原理の医療機器を用いた研究では、線維筋痛症の患者さんを対象に疼痛スコアの改善が報告されています
- 理学療法(運動療法):中枢性の要素が強い痛みに対しても、運動療法は国際的なガイドラインで中心的な選択肢の一つとして位置づけられています
- 栄養サポート(オーソモレキュラー療法)など、生活習慣全体からのケア
このタイプの痛みは、他の2つに比べてまだ研究の蓄積が少なく、当院として明確に「これが効く」と断定できる武器は、現時点では限られています。ただし、注射や処置のような直接的なアプローチだけでなく、生活全体を支えるケアが特に重要になるタイプの痛みだと考えています。
■ 「武器は多い方がいい」と考える理由
一つの治療法だけでは、すべての患者さんの痛みに対応することはできません。同じ「腰痛」であっても、その原因が椎間板にあるのか、神経の圧迫にあるのか、あるいは痛みを感じる仕組みそのものの変化にあるのかによって、有効なアプローチはまったく異なります。
当院がこれだけ多くの治療法を取り揃えているのは、目の前の患者さんの痛みのタイプを見極めた上で、最も合う「武器」を選べるようにするためです。どの治療も、効果を保証するものではなく、個人差があります。保険診療・自由診療が混在しており、費用や適応についても、診察の中でエコーなどを用いながら丁寧にご説明します。
各治療のより詳しい内容は、院内でお渡ししている資料「治療大全」でもご覧いただけます。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。



